【浮世絵付き】『バッド・チューニング』を3分でレビュー

映画『バッド・チューニング』 浮世絵風似顔絵
グッド・モーニング! バッド・チューニング!

 

今回は『バッド・チューニング』を3分でレビューっす。
70年代の若者文化を映し出し、アメリカでは公開当時大ヒットを記録し今でもカルト的人気を誇るコメディ群像劇っす。

日本では残念ながら当初劇場公開はスルーされてしまったようですが、
今作の監督であるリチャード・リンクレイター氏の新作公開に合わせ2016年にめでたく日本初上映されたようっすね!
(プロフェッサーWこと、Wikipediaによれば94年に日本上映とありますがこれは誤記っすかね。詳しい方いらっしゃいましたらIWAまで。)

 

それでは、ステイ・チューニング3分映画レビュー!

※作品の核心に触れる記述は多め

目覚めの一夜

舞台は1976年。
その日、テキサス州の田舎町のある高校は夏休みを翌日に控えた終業日だった。
新入生は男女それぞれ先輩学生の洗礼に怯えながらも、新しい高校生活に期待を膨らませていた。
その夜、学生たちは夏休み突入記念のパーティーを予定していた。
あらゆるグループが参加する予定だったが、直前でトラブルが発生し中々開催できないでいた。
持て余した時間を思い思いに過ごす学生たちの、長い一夜が始まる。

 

序盤の夏休みが始まるシーンの解放感が見ていて嬉しい。

教室から学生達が笑顔で駆け出し、授業のプリント類を窓から投げ捨てては教科書を踏んづけて放り投げる。
この時点で「あ、この映画好き!」と思える様な最高に微笑ましい場面である。

恐らく校内で最も”イケてる”グループであろうピンク、ジョディ―、ベニーやスレーター。
彼らが行う新入生への洗礼儀式は見るからにイタイものだが、どこか先輩の後輩への愛を感じる。
この後輩たちが上級生になった際にも、同じように洗礼と愛をもって後輩を迎えるのだと思うと何か感慨深いものがある。

また、それぞれグループごとの特色はあるもののヒエラルキー同士が分け隔てなくフラットに交流している点も見ていて心地が良い。

 

全編を通して酒や悪ふざけ、ドラッグにセックスなど若者の享楽的雰囲気が満ち溢れる。

ただし、そんな浮足立った空気感が不意に現実へと着地する瞬間が多々ある。
怒り狂った老人に銃を向けられ学生たちが心底震え上がる場面や、
屋外パーティーの喧騒から一瞬で車内のシリアスなムードに転じる場面などが挙げられる。

特筆すべきは、新入生の洗礼に命をかけるオバニオンがミッチ達に報復を受けるシーン。
ここはいくらでもコミカルに描けるはずなのに、あえてそうはしない。
報復をされて怒り狂う彼の姿を、引きの画で映し続ける。
その時間が異様に長く、観ているこちらが気まずくなってくる程だ。

新入生をしごくことに生き甲斐を感じている彼が、新入生側に一本取られ半ばアイデンティティが崩れかける。
恐らくオバニオン自身も薄々と感じていた、”このままの自分ではいけない感”。
その不安感を逆手に取られ、自尊心を粉々に打ち砕かれた彼の姿は半ば悲哀すら感じさせる。
若きベン・アフレックがその絶妙な怒りと悲しみを体現している名場面だ。

 

また、終盤のフットボール場にてベニーが酔っ払いつつ呟く台詞。
「大人になって今を思い出した時に、閉ざされたこの世界で俺は精一杯プレーしたと思い返すだろう」

この台詞と共に、ピンクの顔をカメラがゆっくりと移動しながら捉えるショットがある。
ピンクはグループの中心であり、ガールフレンドがいながら別の女の子に浮気中だ。
他のグループにも顔が効き下級生にも優しい。喧嘩の仲裁に入るなど友人の信頼も厚い。
そんな一見完璧な彼でも、フットボールを続けるのかどうかという問題も含め未来が不安で仕方がない。
それでも、そつなく完璧な自分を演じていたところでベニーの上記の言葉に足元をすくわれる。
果たして「自分は精一杯戦っているだろうか? 自分は何者になるのか?」と自問する。

その直後、ベニーはふざけて茶化してしまいピンクも少し安心したように微笑むのだが、
ここで生じたピンクの自問自答が先延ばしにしていた決断に終止符を打ち、彼の人生が自立的に動き出す。

 

このように刹那的雰囲気な「動」の中に、不意に「静」の場面が挿入される。
若者の内面を象徴しているかのようなこの構造が、切なくも心地が良い。
ただしあまり重くなり過ぎないように演出されているため、押しつけがましくなく好感が持てる。

そして、この夜をきっかけに多くの人物が外部に行うささやかな抵抗こそ、
“今この瞬間に変わっていく彼ら”を目撃している感慨深さを観客に提示する。
こういったシーンがあるからこそ、10代の乱痴気映画だけに留まらない甘く苦い後味がある。
まるでピンクやベニー、オバニオンやミッチが本当に実在していたかの様な愛しさが残る作品だ。

 

今回はここまでっす!
レビューでは触れませんでしたが、
劇中常にラリッているベレー帽のスレーター(ロリー・コクレーン)がIWAのお気に入りっす!
友達になって一緒にラリッて女の子をナンパしにいきたいっす!

 

それでは!
次回もチューニングは似顔絵映画浮世絵師でステイ・クール!

 

2017.9.26

Kenji Iwasaki

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